里和慶一さん

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現在イギリスに単身渡り、スーツ作りを勉強しに行っている里和さんにインタビューしました。初めてお会いしたのはパンツ職人尾作さんのパンツセミナーにて。「とても真面目で誠実な方」という印象を受けました。その後、インタビューをさせてほしいとお願いすると渡英直前にもかかわらず快く承諾していただけました。

 

KENSUKE:前職(日本)での仕事を教えていただけますか?

里和さん:英國屋でフィッターとして働いていました。お店でお客様の採寸、仮縫いをさせていただき型紙と生地上に反映させる仕事です。縫製者の方に仕事を渡す前までの仕事がメインになります。
それ以前はテーラーとして4年弱、上着の縫製をしておりました。

KENSUKE:縫製の方で働いていた時はどういう方のもとで仕事をされていたのでしょうか?

里和さん:英國屋で最も技術の高い職人の中の一人の方の元で仕事をしておりました。その方は燕尾服などの礼服も多くやってらっしゃると同時に、ダッフルコートや和装のコートの様なものまで任されているような方でした。70歳を超えてらっしゃいましたが、新しいことや方法に常に貪欲な方でした。仕事にはとても厳しい方でしたが、とても尊敬しております。 工房での最後の頃に自分で縫った洋服を見てもらった時に、普段仕事に関して褒めて もらった事はなかったのですが、「うん、いいんじゃない」と言ってもらった時は とても嬉しかったです。 フィッティングの方でも素晴らしい職人さん達の元で仕事をさせて頂けました。

KENSUKE:そうなんですね。それは里和さんが何歳ぐらいの時なんでしょうか?

里和さん:入社後1年半ほど裁断の仕事をしながらその他の時間で職人さんに縫製の基本的な技術を少しずつ学び、 その後その方の工房に入りました。

KENSUKE:そうでしたか。里和さんが英国屋に決めたきっかけは何だったんでしょうか?

里和さん:母体の大きい会社ですので、若い年齢でも縫製から最終的にフィッティングまで 強く望めばやらせてもらえるだろうと思い英國屋に決めました。 個人でやってらっしゃるテーラーではそれは無理だろうと考えました。 それと現実問題として、初めから給料が貰えるというのはとても魅力的でした(笑)

KENSUKE:聞いているとそれも結構苦労されている方多いですよね。

里和さん:そうですね。もちろんそれほど高い給料ではありませんでしたが、1人暮らしを していたのでとても重要でした。 もともと現代において丁稚奉公のような制度には少し疑問を持ってはおりました。

KENSUKE:そうでしたか。では服作りの中で、なぜスーツだったんですか?

里和さん:もともとはモードが好きで、レディスのオートクチュールに憧れていました。シャネルの舞台裏を映したドキュメンタリー映画があるんですけど、それを見て服飾を目指そうと思いました。それからずっとレディスのオートクチュールを目指していたのですが、服飾学校にてフランスで修業されたテーラーである垣田先生にお会いして、考えが変わりました。縫い手が表現できることがこんなにある世界って面白いなぁと。型紙だけで完結しない世界があると思い、こっちの世界に進みました。

KENSUKE:垣田先生にスーツを学んでそちらに興味がわいたんですね?

里和さん:垣田先生の事を知ってからビスポークについてきちんと調べ始めました。 そしてやはり魅力があったので目指していたレディスからメンズの垣田先生の授業を 選択する事に決めました。

KENSUKE:長谷川さんも垣田先生の影響は大きいと語っておられましたね。

里和さん:長谷川も私も同じ学校で、ESMODには垣田先生から学びたいという理由で入学する 生徒も多かった様です。また関東圏の学校でメンズのテーラードを学べる学校は当時 ESMODしかなかったと思うので、垣田先生の影響を受けてる方は多いと思います。

KENSUKE:もともとはオートクチュールを目指しているなかでメンズのモノ作りのある学校へ行こうと思ったのはなぜだったんですか?

里和さん:ESMODはレディースにも強い学校で、特に技術面の基礎に関してはかなり評判が 良かったです。また元々海外で仕事をしたいという憧れもありました。 レディースをやりたいという思いからのESMODの選択だったのですが、学んでいく うちに自分で考えて作った物を自分自身で試せない事にストレスを感じる様になりました。 技術の向上という面でレディスの服に関して女性にしかわからないことがあるなと思いましたし、納得がいかないまま次のステップに進んでいくのが少し嫌でした。 それもメンズに志すきっかけのひとつでした。

KENSUKE:メンズでしたら自分で作ったものを自分で体感できますもんね。

里和さん:そうなんです。自分が着てみた雰囲気を見て、どうなのかなぁと思えるじゃないですか。やっぱり服を着るのは好きなので、それが欠けているのはやってみて意外と悔しいなぁ~とレディスでは感じましたね。そういったのが重なってスーツに行きました。

KENSUKE:スーツに行きたいと考えたときに影響を受けたものは垣田先生以外にもあったんですか?

里和さん:東京出身なのでもともと色々な物を見られる環境でしたね。大きく好みは変わりませんが、 やはり学生の頃と今とでは物の見方は違いました。当時好きだった物を振り返ってみると 「なんであれが好きだったのだろう」と思ったりする物も中にはあります(笑) その中で以前から私がメンズで好きな洋服はCarol Christian PoelやAlexander MaQueen などのテーラードの技術をベースにモードなクリエイションをしているブランドでした。 ですのでテーラーという職業に興味はありました。 後は運良く手元に来たオーダスーツなどの古着をバラしてみたりしてはいました。

KENSUKE:長谷川さんがヴィンテージをみて感動されたように、オーダーのスーツをみて感動されたことなどはあったんですか?

里和さん:何が良い悪いという価値基準がまだなかったのですが、昔の服を見て今とこんなに違うんだという驚きはありましたね。

KENSUKE:具体的にはどんな違いでしょうか?

里和さん:先生や職人さん達に教わった事との違い、資材などの選定を含め、にはやはり驚くこともあり ました。また実物もそうですが各文献やインターネットからの情報も含めて、ここ100年の中での 変化の仕方はとても面白いですし刺激的でした。 各時代の美学の変化も面白いです。

KENSUKE:それは過去の作品の出来が良かったことへの驚きでしょうか?

里和さん:過去の物の方が良かったと決めてしまうと自分が考える必要がなくなってしまうので、良し悪し は決めずに、制作された意図を考えて自分で試してみたり実際に体験してから判断しようと常々 考えています。バラしたり調べたりしていて、こんなにもバリエーションがあるんだという驚き はあります。一般的に外から見ていてそこまで大きな違いが見えないものでも、構造などで違い があるのはとても面白いです。 そして、こんなに違う事をしていても終着点や目指しているところにはおおきな違いはないと いうのが自分にはとても興味深いです。 一つのベーシックな形が決まっている中で、色々な方々が色々な思いや方法でモノを作っている というのが他にはそこまでないのでは?と思いました。洋服や靴などもそうだと 思いますが、思想が強く反映されるものだと思っています。 プロセスも多いですし。

KESNSUKE:老舗のテーラーさんが数ある中で英国屋に決めたのはなぜなんでしょうか?

里和さん:たまたまお話を頂けたのが英國屋だったというのもあります。 ですが他の老舗と呼ばれるテーラーより母体が大きいので、職人さんもお客様の数も多いだろう と思い英國屋に決めました。 その分だけ様々な経験がしやすく、自分の引き出しも増やせると考えました。

KENSUKE:今後始めようと思っているのはどういうことなんでしょうか?

里和さん:イギリスへ行って向こうで独立されているテーラーさんのもとへ行こうと。30までには海外へ行こうとずっと思っていたのでイギリスで英語を就学しながら学ぼうと思っています。

KENSUKE:いろんな国のスタイルがある中でイギリスは好きなんですか?

里和さん:イギリスは好きです。イタリアもフランスも好きなのですが、やはり同じ国でも人によって スタイルは様々でして。そういうのを見ていると国で好き嫌いは括れないなと最近は考えて います。 イギリスは資材の使い方を含め作り方のバリエーションというか引き出しが多い様に感じて いますし、オーダースーツの市場が大きいのでそれだけ注文自体のバリエーションも 多いだろうなと。英國屋を選んだ時と違い理由でもありますね。 加えてヴィンテージのスーツや道具や書籍も見つけられるでしょうし。 単純にいわゆるイギリススタイルは好きです、文化の生まれた街でもありますし。

KENSUKE:そうでしたか。今後修行されていつかは日本で…というお考えなんでしょうか?

里和さん:そうですね。ただ、ひとりで独立というよりは自分の個性と引き出しを使って他の方と仕事をす る方に今は魅力や面白さを感じています。

KENSUKE:引き出しが多ければ多くの方と繋がるきっかけになりますもんね。

里和さん:はい、おっしゃる通りだと思います。自分の強みの一つが、学生時代から現在も休みの日などに 本職と並行してデザイナーズブランドやカジュアルブランドの既製の仕事を、パタンナーやアシス タントとして、やらせて頂いていました。 なのでそちらの方面の方々との仕事も大変関心を持っておりますし、刺激が多いのでとても好き です。可能性が広がりますよね。

KENSUKE:最後に今の仕事を続けるうえでのモチベーションは何になっているかを教えていただけますか?

里和さん:自分で体験できる事ですかね。自分の考えを自分でも体験できる、また反映するプロセスが沢山 ある事です。 趣味で自転車やバイクをいじるのが好きなんです。何かを自分の意思でいじって変化を体感できる、 トライ&エラーが自分の糧になっていくのがモチベーションですね。 それと、常々自分の仕事の言語化はとても重要だと考えています。分かってくれる人にだけ 分かればいいとか頑固であるよりも、色々な人に伝えられる様になりたいなと私は考えています。 あと、単純に洋服を着るのが好きです。

KENSUKE:ありがとうございました!

里和慶一さん
Instagram:keiichi_satowa